とくじろうの春外伝




いつもの書きっ散らかすブログに戻りますが、先日の「とくじろうの春」の釣行時、とくさんご自身が撮影された写真を、ご本人から送っていただきました。

本編と合わせてご覧いただいた時に、より臨場感が出るよう、写真にキャプションを入れてみました。

 

渓は絵になる場所が多く、コンデジでなくてデジイチを持参したくなることが多いのですが、趣味の荷物が多くなればそれだけ危険度も増すわけで、みなさんもご自身の体力や遡行技術、入渓する場所等をしっかりと考慮し、持っていくものを考え入渓していただきたいと思います。



ちなみに私の場合は「釣り優先」か「渓優先」かを分け、釣りに集中したい時にはデジイチは持っていきません。もちろんヤバそうな場所がある渓にいく時も。
魚を探すことに夢中になり、ドボンなどすると元も子もないので、防水コンデジを持っていくようにしています。

渓そのものを愉しみたい時には心に余裕があり、釣りをしていても1尾釣れたらラッキーという心づもりでいくことが多いため、のんびりと遡行しています。
そんな時にはデジイチ持参で写真撮影も渓の楽しみのひとつととしていますね。



魚を釣って持ち帰る。
このことには食欲だけではなく、自分で釣った獲物を誰かに見せたい、家族に自慢したいなどという気持ちもあると思います。
家族が喜び、丁寧に調理していただけば魚もうかばれるかと思いますが、誰かに見せたい、自慢したいという目的だけで、雑に扱われた魚などは気の毒でなりません。
ましてやこの写真の渓のように、放流はされていない、自然再生だけしかしていない渓などでは、寄ってたかってエサ釣りなどで小さい魚まで抜かれ、持って帰られたらひとたまりもありません。

そんな自慢がしたいなら、写真に撮ればいいのです。
その時の状況から雰囲気まで、自分のこともついでに写せば、自分史の一部にもなります。
もっとやりたいならブログでも立ち上げれば、それそのものが釣り日記にもなってくれます。
魚を減らすことなく、みんなに自慢したり、それをネタに盛り上がったり。

わざわざ買わなくても、今は携帯やスマホにもいいカメラ機能がついています。
どうぞみなさんカメラを持ち、渓でのことを想い出に残してみてはいかがでしょう。



この日、実は嫌な光景に二度出会いました。魚の話ではありませんが、ゴミの話です。

一度は沢での焚火跡に、カップ麺と焼酎の缶がそのまま放置されていました。
もちろんゴミは拾ってザックに下げて帰ってきました。

そして一日の釣りを終え林道を歩いていると、今度は長靴を履いた三人組の釣り師が、林道を歩きながらスーパーの袋をポイ捨てしました。
後ろから見ていたので、隊長がどやしにいきました。
一人は60年配です。そういった年齢までいっているなら、常識的に考えたら逆に注意するくらいだと思うのですがね。
魚はキープするはゴミは捨てるは。やらずぼったくりとはこのことです。
こういったことを取り締まる術は私たちにはありません。啓蒙活動しかやりようがないのです。
しかし心の憂さが晴れないので、そんな時にはいつも「こういった行為は神が見ている」「こういうことをやる奴らには必ずや天罰が当たる」と思い、自分の気持ちを落ち着かせています。

昨年は、いつもみんなが楽しませてもらっている奥多摩の渓の清掃に行きました。
せっかく作った会です。大したことはできませんが、今後もなにかのお役に立つことができればと思っているところです。



それにしてもせっかくの楽しい釣行が台無しになる、目に入るバカどもの行為。こういうバカ野郎は、本当に渓に来ないでいただきたいです。

いつの世も、どんな世界でもこいう奴はいるものですが、ホント・・・神様は見ていますよ!!!


吉田毛鉤 吉田毛鉤会代表 天罰覿面たちどころ 吉田孝  



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とくじろうの春(第三話・最終回)

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痛恨のバラシ。というか、ハリスを切られ毛バリを魚に持っていかれてしまったとくじろう。
天を仰ぐか地にひれ伏すか。茫然と立ち尽くす春の渓には日が射していて、自分の気持ちとは裏腹にマッタリとした空気が流れていた。



先回りしていた代表が、高い所から魚の群れを見つけた。
上からの指示でその魚を狙うが、見向きもされなかった。
その後も坦々と、本当に坦々と竿を振るが、自分の毛バリに出てくれるような魚はいない。
何度も心が折れそうになるが、二人の目線が気になる、というより自分に釣らせようとしている二人の熱意を背中にひしひしと感じるので、がんばって竿を振り続けた。

入渓し、釣りを開始してから5時間近くが経過した。
左岸から流れ込んでいる一本の沢を見た隊長が、魚がいるかどうか様子をみてくると言ってその沢に上っていった。
まもなく隊長のホイッスルの音が聞こえた。その姿が見える場所までいくと、手には魚が。 



「おそらく魚はそこそこいると思うので、こちらの沢を釣り上がりましょう」「ただし距離は短いので、退渓点までいったら今日の釣りは終了になります」とのことだった。

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その沢は今までとはまた違った渓相で、階段状になっていて、畳半畳から二畳分くらいの大きさの落ち込みが続いていた。
毛バリを打っては落ち込みを乗り越え、また打っては乗り越えの繰り返しだ。
気力だけでなく、体力ももう余力があまり残っていない。
このままだと釣れずに終わってしまいそうだという、嫌な考えが頭をよぎる。

ひと息ついて天を見上げると真っ青な空があった。
自分の心境とはほど遠い、天高く突き抜ける真っ青な空。そしてその視野の片隅に、今日の退渓点となる林道が間近に迫っていた。

「もう少しで今日は終わりですが、この上に、後一つだけ魚の付いてそうな落ち込みがあるので、最後にとくさんにやってもらいましょう」と、隊長から話があった。

「馬手に隊長、弓手に代表」。鶴翼の陣を無理やり組まされたようなとくじろう。まさに抜き差しならないこの状況に、額に脂汗がにじんできた。

三人共に背中からザックを下し、落ち込みから少し引いた位置で木化け石化けしてその流れを見ていると、何尾かの魚がクルージングし始めた。
ドキドキするとくじろう。しかもそこにいる魚は流下してくる虫をめがけ、時々ライズをしている。
「ドキドキドキドキ」と高まる心音。
「ああいうヤル気のある魚は獲れる魚ですよ」と代表からも声がかかる。

後がない。この場所で魚を釣ることができなかったら、奥多摩の沢でのデビュー戦はみごとに敗退となってしまうのだ。しかも今日の一日のことを考えたら、それこそ立ち直れないくらいな心境のままでの敗退になってしまうのだ。

「とくじろう背水の陣」

笑える状況ではないのだが、後ろに水がある場所なので、本当に背水の陣になっている。
そして右と左からああだこうだともの凄いアドバイスもある。アドバイスというより罵声に近い。
それもなんとしてでも魚を釣ってもらいたいという、二人のガイドからの情熱の罵声なのだ。

じっくりと仕掛けを作り直し、この一投のためだけに集中する。
これで最後だ、最後のチャンスなのだと思うと、今まで以上に緊張が高まってしまう。

「よし!」

本当はちっともよくはないのだが、心を奮い立たせて毛バリを振り込んだ・・・・・つもりが痛恨のミスキャスト。
しかも付近の枝に仕掛けを引っかけてしまった。

檄を飛ばされ仕切り直す。

「もうどうにでもなれ!」

半ば本気で、半ばヤケクソ気味にキャストすると、毛バリがいい場所に入った!(らしい)。
本人はよくわからないのだが、「おっ!いい場所に落ちた!」と代表の声が聞こえる。

水面を流れる毛バリの行方を、鷹の目のようになった三人の視線が追う。

ガポッ!!

「@$%!&#〜!」

「%#@&%〜$*%$&@¥〜!!!」

「@%*!&〜$!%#!〜@*!」

三人三様わけのわからない雄叫びを上げていた。

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後で冷静に考えると、

「ウワッ!出たっ!」ととくじろう。

「何でもいいから陸地に上げろ〜!!!」と代表。

「ネット!ネット!ネット!ネット!」と自分のネットを出してサポートに入る隊長。

ということだったようだ。

延長戦の末のVゴール。逆転満塁ホームラン。

三人とも腰が抜けた。暫くは言葉が出なかった。腰が抜けて言葉も出なかったが、張りつめていた緊張が解け、三人の心はその時の青い空のように、スッキリと晴れやかになっていった。

指先の震えがいつまでも止まらないとくじろう。しかし嬉しい!そしてなによりもありがたい。



釣った魚は黄金色に輝くみごとなイワナだった。



今日一日の苦労を考えると、このイワナは特に光って見えた。
特に光って見えたのは、自分の目ににじむ「泪」という名のフィルターのせいかも知れないが。

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いつも話を聞かされていた「美渓の美魚」の話。


そういうことなのか。


魚の大きさや数釣りとは無縁の世界。


そういうことなのか。


何時間も歩き、冷たい沢水を被り、落石や滑落の危険や熊や蜂などに怯えながらも、一尾の魚に会いたくて渓に入る人達。


そういうことなのか。


釣れたらコーヒーで祝杯を上げようと、代表が持参したコーヒーをその場でいただいた。


そういうことなのか。


なんだか全ての事柄が、この一瞬で理解できたような気がした。



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とくじろうは釣った魚を水に放った。

イワナは気持ちよさそうに泳いでいった。

そのイワナがちょっと微笑んでくれたように思えた。

とくじろうに春がきた。

そしてまた渓にいこうと思った。


(完)


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とくじろうの春(第二話)

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話は少し前に戻るが、奥多摩のTOKYO TROUT COUNTRY内にあるレストランのメイフライ。
そこで時々耳にするテンカラ師の会話の中には「渓の顔、渓の相」「苔むした日本庭園のような」「美渓での美魚」などという言葉が出てくる。
しかし山歩きも沢歩きもしたことのないとくじろうは、それがどんなことなのか、想像しても今ひとつピンとこなかった。



さて、件の沢での釣れない釣りを続けているとくじろう、檄を飛ばされただひたすらに竿を振るのだが、魚を釣るというよりは竿を上手いこと扱い、思った場所に毛バリを飛ばすことだけしか頭になくなってしまっていた。



ただその心がふとゆるんだ時には、メイフライで聞いた会話を思い出し、「んっ、自分は今まさにそんな場所にいて、話に聞いた美しい魚を釣り上げようとしているのだな」と思うこともあった。



二時間ほど竿を振っていたら、なんとなく開始した時よりも毛バリが飛ぶようになってきた。
それがわかったのかどうかはわからないが、代表から声がかかった。



「本日の目標は、一尾だけでもいいからとにかく釣り上げること」「管理釣り場とは違うので、一ヶ所で粘るのではなく、ポイントを見極めそこだけを叩いていくように」とアドバイスをされた。

とはいえこういった沢のポイントなどさっぱりわからぬとくじろう。
それを察した代表が、目の前にある流れを見ながら指図をする。



「ここは魚が出そうな流れです、テッパンですので慎重に毛バリを打って下さい」と。
二筋ある流れを見て、自分的には奥の流れに魚がいると思ったので毛バリ打ち込むと、代表から声がかかった。

「そっちじゃなくて手前の流れです」「その落ち込みに毛バリを打ってください」と代表。
言われるままに振り込むと、今回は上手いこと指示された所に毛バリが落ちた。
「いいですね〜、そこから1メートルくらい毛バリが流れた所、魚が出るならそこで出ます!」と、代表の解説を聞いていたまさにその時その場所で、ガツンとした手ごたえを竿に感じた!

「ウアッ!」

声にならない声を上げたとくじろう。
なにがなんだがわからぬうち、その魚は水面でキッチリ二回、ビタビタっと暴れたのが、どういうわけだかスローモーションのように目に映った。

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数秒後、我に返った時に背後で代表と隊長の声が聞こえた。

「でかかったねー」

「いやー惜しかった」

春の渓風がとくじろうの頬をなでていく。

そのとくじろうの目線の先には、主を失った凧のように、春の渓にユラユラとそよぐライトグリーンのラインがあった。
そしてその先にはみごとに毛バリを取られ、虚しく垂れ下がる透明のハリスだけが残っていた。

後悔。

悔しさ。

苛立ち。

そんな心境にもなれぬほどの虚無感。

「失意のどん底」という言葉があるが、今その意味を説明してくれと言われたら、世界中の誰よりも自分が上手く説明できるとさえ思った。



慣れぬ場所で冷たい沢水に足を浸し、朝の低い気温の中、寒さに震えてがんばってきたのに。
隊長と代表に檄を飛ばされ、その言葉に応えたくて、結果を出したくて竿を振ってきたのに。
不甲斐なさと申し訳なさに言葉が見つからないとくじろう。
そんな心境が伝わったのか、ひと休みしましょうということになった。

隊長と代表の話によると、朝の低い気温の間はほとんど走る魚も見ることができず、定位している魚も見つけることができなかったとのこと。
「こっちも寒いし、渓に日が射すころになればもう少し反応があるはず」「この先まで進めば渓に日が当たっているので、そこまでは早いペースでいきましょう」と、参謀本部での作戦会議になった。

不甲斐ないとくじろうを尻目に、ボチボチ魚の活性も上がるころだろうと、ようやっと竿を出した隊長と代表が様子をみるため少しの間先行する。するとどうだろう、ほどなく戻ってきた二人のネットにはヤマメが入っていた。





釣れないのは場所や環境のせいではない、ましてや魚のせいでもない。





これを目の当たりに見せつけられたとくじろうは、自分の技量の足りなさに、もう少しどうにかなるかと思っていた自分自身を少々恥じることになった。


(第三話へ続く)



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とくじろうの春

2012年の秋、とくじろうは釣りに興味を持った。
特に理由はない。ただ、昆虫類を模して作った毛バリで渓流の魚を釣る「テンカラ」という釣りをやってみたいと思ったのだ。 
ネットや雑誌でそのやり方を検索してみたのだが、いかんせんメジャーな釣りではないため、情報ソースが少な過ぎる。
という理由で自分ひとりでスタートしてみるには敷居が高過ぎたので、ネット検索でヒットした、テンカラ教室というものに参加の申し込みをしてみたのである。

恐る恐る参加した初めてのテンカラ教室。
その後は何の因果か運命か、この教室の講師である吉田氏の主宰する「吉田毛鉤会」というテンカラを趣味とする集団に入会することとなり、半年が過ぎていった。

このとくじろう、会に入ったはいいが、テンカラを開始した時期が悪かった。
その時すでに一般河川は禁漁期。渓流でテンカラをやりたくても、禁漁なのでどうにもならない。
そこでテンカラを始める切っかけとなった教室を開催している場所でもある、管理釣り場のTOKYO TROUT COUNTRYに足繁く通うことになった。
秋から冬へ、会の帽子に「見習い中」のステッカーを貼り付けたとくじろうは、雨の日も雪の日も、テンカラがやりたくて厳寒の奥多摩に通うことになった。

年も明け、一般河川が解禁になった。さりとてとくじろう、一般河川でのテンカラは未体験。
何をどうしていいかは全くわからず、周囲のメンバーの釣果報告を指をくわえて見ているだけであった。

そんなある日、毎日チェックしている吉田毛鉤会のブログを見ると、「代表が渓に入るが、同行者求む」という内容の記事が目にとまった。
その記事に名乗りを挙げた同行者は、あの沢のエキスパートのK隊長である。
釣技に沢歩きの教育係が二人。これはチャンスととくじろう、自分も早速参戦の申し込みをすることにした。

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2013年4月。まだ夜も明けぬ午前4時から林道を歩き、入渓点に着いたのが1時間後。
ヘッドランプを点け、隊長と代表の間に挟まれ暗い渓に足を踏み入れる。



初めての体験に心臓がドキドキしたが、ここで明るくなるまでゆっくりしましょうと、淹れてもらったコーヒーをひと口すすると落ち着いた。
しかしこれから始まる初めての渓でのテンカラ釣りのことを思うと、心は高揚を隠せなかった。



日の出と共に周囲の景色が目に入るようになると、山桜の花も散り、ミツバツツジの咲く渓にとくじろうは立っていた。



気持ちがよい。

実に気持ちがよい。

こんな場所で自分の好きなテンカラという釣りができるのかと思うと、テンションはマックスになり、頭の中が真っ白になってしまった。



「さあ始めましょう!!」

隊長のかけ声と共に、竿を振る。

しかし妙に上がったテンションのためか、いままで教わってきた釣りが全くできず、というか勝手が違うので戸惑うばかりとなってしまった。



随所随所で隊長の檄が飛ぶ。



そんな緊張と戸惑いの中、魚を釣るという行為にまでも到達していない自分に不甲斐なさを感じながらも、ひたすら竿を振り続けるとくじろうであった。

(続く)


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